「海辺のカフカ」村上春樹

初版 2002.9. 新潮社

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私も兵隊に会ったことがある。

忘れていた、気づいていなかったけれど今気づいた。 私は兵隊に会ったことがある。

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15歳について

私が15歳だったときのことを考える。
中学三年生の夏。 クラスで合唱コンクールに出す選曲をした後、 ピアニストの女の子に「あなたがひとりでその曲がいいって言ったんだ」 といわれた。悲しくて悔しくて、別の教室の前の廊下で友達に話しながら、昼休み中泣いた。
私はピアノが上手で、頭が良くて、髪の毛が茶色くて色の白い、その口の悪い女の子のことが、好きで、そして妬ましかったのだ。 今私が持つ妬ましさに比べれば、未熟な可愛い妬み。 でも、あれが境目だった。
高校一年生の春。 初めて男の人とお付き合いをした。 今思えば、お付き合いなんて言えない可愛らしい関係だったけれども。 でも、あれが境目だった。
それからの私は、深く人を妬み、深く人を愛し、また、愛していない人と関係を持つこともしてきた。15歳を越えてしまってからの私を考えるとき、たしかに、たしかに、あの時に境目があったのだとわかる。

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巨大なる偏見を持って/圧倒的な偏見を持って/殺す

9.11.の大規模テロのことを考えずにいられません。 私はあのニュースを見たとき、飛行機を操縦していた テロリストも、ビルに突っ込むその瞬間は目を閉じたのだろうかと考えました。 私も、誰もがきっとそうするのと同じように、しただろうかと。 この考えは、圧倒的な偏見で語られるテロリストの側、そうでない側、といった図式が嫌だったから、その図式で考えるのが恐かったからひねり出したものです。
テロリストも同じ人間なのだと考えることはたやすい。 けれど、その同じ人間が圧倒的な偏見をそれぞれ持っていることについて目をそらしてはいけないのだと思うと私はひどく苦しい。
「目を閉じちゃいけない。目を閉じても、ものごとはちっとも良くならない。」
---------------------- (2002.10.25)


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