1993.講談社文庫
村上春樹がヨーロッパで過ごした1986年から1989年の3年間をつづったエッセイです。
この間に「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」が書かれたことがわかります。
私は両作品とも大好きなので、あの作品がこんな状況で書かれたと知ると感慨深いものがあります。
私は彼の文章の、「誠実さ」のようなものがとても好きです。
彼は必死に自分の感覚を使って、自分の心の中に食い下がっています。
そしてそれをどうにかして言葉にすくいあげようとする姿勢を強く感じます。
作家はみなそういった作業をしているのだとおもいますが、特に彼の作品を読むと、そう感じるのです。
その作業をとても誠実に行った結果が彼の作品なのだといつもおもいます。
「午前三時五十分の小さな死」という章に
だから長い小説を書いているとき、僕はいつも頭のどこかで死について考えている。
とあります。普段は自分が今日死ぬ可能性なんて意識しない。
でも長い小説を書くときには、「これを完成させるまでは死ねない」とおもう。
だからいつも死を意識する。という話なのです。
こんなに必死で、彼は書くのですね。そうして完成した作品が、出版され、多くの人に読まれているのですね。
私は最近、人間が何かを成すことに興味があります。
なぜ人間は、生きている間に何かを残そうとするのでしょうか。
何かを残したい、というこの欲求は何なのでしょうか。自分がこの世界に生きていたという証でしょうか。
私は自分の子供でもいい、愛した人でもいい、自分の物語が、音楽が、絵が、自分が死んだあともどこかに残っていてほしい。
そう、吐きそうなほど強く欲しています。
なぜこんなに、この欲求は押さえがたいのでしょう。
何かを望むということは苦しいことです。望みは、かなえられないかもしれないから。
私が死ぬとき、私のことを誰も惜しんでくれなかったら。次の日には忘れられてしまったら。そう想像すると苦しい。
だからできるだけ、何かを成し遂げて死にたい。人々の記憶に残るように。
ヨーロッパのいろいろな面が村上春樹流に、わかります。
ギリシャの田舎は行ってみたくなりました。イタリアは行きたくなくなりました。