山田詠美「色彩の息子」

新潮社1991.4

金、赤、青、紫、白・・・12色の短編集です。色紙が挟み込まれていて、ぱらぱらとめくるのが楽しい本。私は、「白」の短編「病室の皮」をよんで、とても恐ろしく、また胸が痛かったのです。

このお話は;「自分は特別な人間なんだ」と考え、それを人に認めさせようとして生きてきた私は、友達もできず、いつもいらいらしていた。だからいまはそんな風に思うのを止めて、善良な人間の皮をかぶって、自己顕示欲も押さえるようにした。普通の、いい人になりきれたつもりで生きている。でも、親友に恋人ができたのをきっかけに「自分は特別な人間のはずだ」という思いがそれにふさわしい扱いを求めて表れてしまい、彼女の恋人に気づかれてしまった女性のお話。

私のことを書かれているようで恐かったのです。自分はほかの人とは違うんだ、自分は一番「良い」のだ、特別なんだ、という感情、いつも持っているから。自意識過剰っていうんでしょうね。「自分が自分であることに優越感を抱きたくて、膿を貯めながら、何かを待ちつづけていた女」と山田詠美は描いている。自分を言い当てられていることを認めなければならない。

この小説を読むのは2回目。以前に読んだのは、大学に入る前だから、3年前くらいか。あのころより、今のほうがずっと、「膿」が貯まっているようで。貯まって、はちきれそうになっている部分をつっつかれたおもいです。自分の自意識を満足させてくれるものを探しているのです。それは誰かの誉め言葉や視線、、成績表や、資格。そんな細かいもののいちいちを、自分の感情を満足させるために求めています。そしていつも、もっともっと、満足したくて求め続けているのです。

なんて欲の深い。なんて醜い感情だろう。自分でそう思っていても、止められないのです。誉めてほしいんです。誰かが、私のこと誉めてくれないと、自信なくって苦しくて仕方ないんです。

昔より少しは、こんな感情押さえることができるようになったつもりです。表面的には。でも、誰かに見抜かれているのかと思うと恥ずかしくて、苦しくて仕方がない。今こうして、この文章を公開するのは、せめて私は、こんな醜い自分のことを自覚しているんだ、としらせるため。病気なんだって、わかってるんです。他人に指摘されるまえに、自分でいっておくため。傷つかないための防護壁です。


<色を持たない言葉というものを使って、色の世界を描きたいと思った。>と後書きで山田詠美はいっています。私はここで、なんか醜いことばかり描いてしまったけれど、心の色彩を映す、繊細な短編集です。読んでみてくださいね。

(97.10.14)
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Last modified: Thu Oct 16 16:02:02 JST 1997