乃南アサ「幸福な朝食」
1996.10.新潮文庫
志穂子という34歳の女性の物語です。 彼女は美しく、野心を持ち、 その野心をかなえるために必死で生きてきたのに、かなわなかった。 そしてこれからの人生はこのまま過ぎていくようだということを 感じてしまったようです。 いままで自分の野心のためにたくさんのものを犠牲にしてきた彼女には そう感じたとき何も残っていなかったし、 これから自分を支えてくれる何者かも,なかったのです。 彼女の野心というのは女優になってたくさんの人から喝采を浴びることでした。 でもそれは彼女の1年前にデビューした彼女そっくりの女優の存在によって かなえられなかったのです。どんなに努力しても。 志穂子は歳を取り、不安を感じていたようです。 彼女の不安に周囲の人間が絡んでさまざまに物語が展開するのですが, この小説はミステリー形式ですので種を明かしてはいけませんね。 私は、この小説中に提示されるいくつかの事件や謎なんてそっちのけで 志穂子の感情の渦にのめり込んでいました。 彼女の、悔しさ。後悔。今の仕事に対する不満と愛情。これからの自分に対する不安。 私自身が将来経験するかもしれない感情だとおもった。 今の私はまだ22歳で、「これからどうなるかわからない」 要素をたっくさん持っている、と思う。 人生の選択肢がまだまだたくさん残されているように感じる。 そして「こんなふうな自分になりたい」という希望がある。 この希望は、かなうだろうか。 もし、希望がかなわなかったら。 その時私は、「それもいいよね。」と笑っていられるだろうか。 10年後、私はどんな32歳になっているだろう。 今の私から見て、「よい」自分でありたいと切実に望む。 後半、志穂子が狂気に陥っていく様子の描写はぐいぐいと読む人を 引きずりこむようです。 志穂子の狂気が自分のもののように生々しく迫ってきます。 乃南アサの作品は初めて読みましたが、これからもっと読みたくなりました。 先日「鍵」を買ったので頁を開くのが楽しみです。(98.5.7.)