ダイアログ・イン・ザ・ダーク(2007.10.13)ダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントがある。
以下引用
ダイアログ・イン・ザ・ダークは,日常生活のさまざまな環境を
詳細は
左手の人差し指に刺さった刺は今は抜けて、小さなかさぶたが出来ている。 「手探りは手の甲を外側に向けてするように」 そうアテンダントのきのっぴーにあらかじめ注意されたのに、 暗闇の作法は急には身につかない。 最初に薄暗がりの小部屋の中、そんなきのっぴーからの注意を受けて、 8人のグループは分厚いカーテンをくぐり暗闇へ。 「ここはどこでしょう」ときのっぴーが言う。 空気と、音の響きで、さっきまでの小部屋よりずっと広い空間であることがわかる。 白杖が配られて、 「足元をつついてみてください。硬さがわかります。 歩くときには足の前へ杖を左右に動かせば、障害物のあるなしがわかります。 これを頼りに、冒険してみましょう」 床が木だね。と8人で言い合う。数歩歩くと、(白杖をうまく使えない私は) 腿のあたりに何かがどしんとぶつかる。 手を出して触ると、跳び箱。 手で段数を数える。4段。 「ここに跳び箱があるよ!」とみんなに言う。「え?どこ?」といわれるから、 跳び箱の上面を手でドンドンとたたいて音を出す。 「ここ。この音がするところ」 音を頼りに集まるみんな。 他に何かないかな。 誰の声も音もしない所へ歩く。つま先に何かがあたる。ひざまづいて触れると、 マット。でんぐり返しをするマット。 ああ、今思えばあそこででんぐり返しをしてみるのだった。 暗闇に入ったばかりで緊張していて、そこまでの思いつきがなかったのだ。 そこは体育館だった。 きのっぴーの声に先導されて進むと空気が変わる。 風が肌にあたり、足元がやわらかくなって外に出たことがわかる。 「ここに手すりがあるよ」と右のほうへ声を向ける彼女に、 だって右手は杖を持っているでしょう?と言うと、 「そうか、私左利きだから左で杖を持っているんだ。」と彼女が言う。 目で見ていれば一目瞭然のこと。 でもこんなことも言葉にして伝え合わないと伝わらない暗闇。 木の段々を降りると、「水の音がしませんか?」ときのっぴーが言う。 全員が耳探り手探りで探す。 見つけた人から、「ここだよ、膝の高さあたりに石があって、その奥。」 水に触れる。そしてばしゃばしゃと水音を立てて場所を伝える。 全員が水に触れた後、 「これから校舎に入ります」ときのっぴー。 最初に入った部屋で、まずきのっぴーがシャカシャカと音をたてる。 「マラカスです。」 次々と手渡して鳴らす。 他には?と手さぐりすると、ちょうど鍵盤に触れる。 オルガンのような音。 少し鳴らしてから、ふと、黒鍵の位置を確かめて、 「ドーレミードミドミーレーミファファミレファー」と弾き始めたら楽しい。 (ドレミの歌) 調子に乗って、 「シーは幸せよ〜さあ歌いましょう♪」まで弾き終わると、 「今弾いてくれたの誰?」ときのっぴーが訊ねるから、 「みっちゃんです」と最初に自己紹介した時のニックネームでこたえる。 「どうしてドレミがわかるの?」と聞く彼女には、 「だって黒鍵が2つと3つとで位置がわかるでしょう?」とこたえる。 暗闇で鍵盤を叩く、初めてのこと。 でも、思うより造作ない。 暗闇の中で目を凝らしている自分に気づく。 何も見えないのに、見ようとしている。そしてそれが無駄な努力であることにこの頃気づく。 じゃあ、目を閉じてみよう。 目を閉じると、視覚は何も変わっていないのに、楽になる。 視覚に頼れないことを受け入れて、視覚以外に神経を集中する。 聴覚と触覚。 次の部屋。テーブルのようなものの上に、いろいろ置いてあるらしい。 きのっぴーが取って渡してくれる。 「かぼちゃ?」「のり?」蓋を開けてみると独得の香りがして、指を入れるとねばねばする。 のりだ。 いくら触ってもわからないものもある。 二人で、「なんだろう。上が石で、木の台がついていて・・・」と語り合う。 ここは美術室、かな、と言いながら、入り口の引き戸を勝手に閉めると、 きのっぴーが最後に入るところにぶつかって驚かせてしまう。 「ごめんなさい。閉めてみたくて」と謝る。 美術室を出ると、外階段。 くねくねとしていて、先に上った人から、 「踊り場があって、次右の方に階段。また踊り場があって、今度は左。そこでおしまい」 そういう声がかかる。 「用務員さんが留守だから、用務員室で休憩しましょう」ときのっぴー。 狭い部屋の端にプラスチックの椅子が積み上げられているのを、 バケツリレー方式で順々に渡し合って、座る。 このころになると全員が大分暗闇に慣れている。 「ウーロン茶と、オレンジジュースと、グレープフルーツジュースがありますよ。 どれがいいですか?」ときのっぴー。 「ウーロン茶がいい人!」「はい・はい・はい」と3つの声が同時にあがって、 やっぱりバケツリレー方式でその人のところへ届く。 「ウーロン茶は缶の形が違うからわかりやすいね」 「オレンジジュースとグレープフルーツジュースは形があまり変わらない・・・ プルトップがちがうかな?」と全員で語り合いながら飲む。 飲み終わって座っているのに飽きた私はそっと立って手探りをする。 視覚以外の感覚をフル動員して、 何もかもを知りたい。そう思ったら座っていられなかった。 扇風機と、ダイヤル式の電話を見つける。 電話は、ここまで来る途中にも、緊急用らしいものがあった。 このダイヤル式電話が線がつながっていない置物なことを確かめてから、 110番をまわす。ダイヤルの戻る心地よい音。 もう二歩歩くとごみ箱。全員飲み終わった頃で、きのっぴーの指示で 空き缶をバケツリレーする。 この用務員室を出ると、薄暮の部屋。 「残念ながらここで暗闇の冒険はおしまいです。皆さんいかがでしたか?」 全員が思いを語り合う。 「ああ、こんなことも言葉にして発しないと伝わらないのだな、わからないのだな。」 「黙っていてもわかってもらえる、なんてことがないのだな。」 私は、「視覚以外で、もっとわかると思ったのに、わからなかった。 人の気配とか、なんとなくわかると思ったのに」 そう残念に言った。 そんな語り合い。同じ暗闇を分け合った8人の一体感。 「では目を慣らしながら、外に出てください。さようなら」 きのっぴーと握手をして別れる。 外のまぶしさに、目を手で覆ったまま立ちすくむ。 なんて明るいのだろう。 なにもかもが見える世界を前にして、 見えるということがいったいどういうことなのか、わからなくなる。 (2007.10.28) |