文体の比較:吉本ばななと村上春樹

(1996年に文体論のレポートとして書いたものを再編集したものです。)


サンプルは吉本ばななが「キッチン」村上春樹が「ダンス・ダンス・ダンス」 両方とも1988年の作品です。

分析表(それぞれの文章に、どんな要素がどのくらい含まれているかのデータ表。ここから文章の特徴を読み取ろうとするもの)

分析項目 吉本ばなな 村上春樹 コメント
抽出文数 4848
完了形の文 13 15
現在形の文 34 27 吉本に多い。
体言止の文
会話文
自立語数 352 351 (自立語数=単語の数)
文の長さ(平均)26.3 24.6(単位=文字)
普通名詞 36.4% 44.7%
固有名詞 0.8% 1.4%
動詞 29.8% 25.9%
形容(動)詞 10.2% 8.2%
副詞 16.2% 8.8% 吉本に多い
連体詞 1.4% 1.4%
接続詞 0.8% 3.4% 村上に多い
指示詞 4.3% 6.0%
オノマトペ 0.3% 0.3%(オノマトペ=擬態・擬声語)

分析

春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」の語り手は、主人公である「僕」である。その「僕」がかなり年数が経って後に過去を回想して語る設定になっているため、完了形の文が多い。また、ばななと比べて接続詞が多いのは、出来事や感情の因果関係をはっきりと描いているためである。名詞の使用が比較的多いこととあわせて、春樹の文章は説明的な、硬い印象を持っている。実際読んでみると、漢字が多いことも分かる。
春樹の文章がこのように説明的になるのは、この作品が「僕」の経験と思考を物語るものであり、周囲の人物のことは風景のように説明されるにとどまるためだろう。
春樹に比べてばななの文体は全体に柔らかい印象を与える。現在形が非常に多いのは以下に挙げる例を見ると理由が分かるだろう。

私、桜井みかげの両親は、そろって若死にしている。そこで祖父母が私を育ててくれた。中学校へあがる頃、祖父が死んだ。そして祖母と2人でずっとやってきたのだ。
先日、何と祖母が死んでしまった。びっくりした。(A)
家族という、確かにあったものが年月の中で一人一人減っていって、自分が一人ここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にある物がすべて、うそに見えてくる。生まれ育った部屋で、こんなにちゃんと時間が過ぎて、私だけがいるなんて、驚きだ。
まるでSFだ。宇宙の闇だ。(B)
葬式がすんでから3日間は、ぼうっとしていた。
「キッチン」P8〜P9

引用部冒頭から(A)までは、ストーリーが完了形で書かれているが、その後(B)までは独白が、口語(話し言葉)・現在形で書かれている。このようなストーリーと独り言の混交はばななの特徴の一つであり、話し言葉が織り交ぜられることで文体が柔らかくなっているのである。
「キッチン」は主人公が数年前の自分の経験を語る筋書きである。物語は主人公を中心に、主人公と周囲の関わりを語ってすすんでいく。春樹と違って周囲の状況が説明されるのではなく、主人公がその状況で感じたことが主観的に語られるのである。このため主観的判断を示す形容詞や副詞が多くなっている。
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