HIV

SLYの物語にはHIVが絡んでいます。 崇がHIVに感染していると告げる。崇の今の恋人ミミは検査をして感染していないことが分かる。崇と依然関係のあった清瀬と日出男は検査を受け、結果を知る前にエジプトへ発つ。

HIVについては思うことがあって、おもいだしました。
私もHIVに感染しているかどうかの検査を受けたことがあります。 感染していそうな人と関係したことがあるとか、そういうハイリスクな生活をしていたわけではないのですが。

私にとっての最初のHIVの印象は映画「私を抱いてそしてキスして」でした。南野陽子が主演した、1992年頃の作品です。あの映画を見て私は、HIVへの恐怖感でいっぱいになりました。
怖い病気なんだ、治らないんだ。すぐ死ぬわけじゃないけど、感染したら人に移さないように、ってそればかり考えなきゃいけないんだ。他人からも差別されて苦しまなきゃいけないんだ。発症したら体中侵されて、脳まで侵されて理性を保つことすらできないんだ...という恐怖。

映画が訴えようと意図していたことはもっと違うことだと思います。でもHIVに対して何の知識もなく、ただ人に付き合って見た私が感じたのは恐怖感でした。 あの時の私がHIV保有者にであったとしたら、何の考えも無しに逃げていたでしょう。

それから1年ほどたって、F.M.ファクトリーという劇団のBLOOD...という芝居を見ました。(劇団名、公演名ともあやふやです)それはHIV保有者の扱いをテーマにした喜劇だったのですが、私はその芝居を見て少し考えを変えました。
確かにHIVは怖いウイルスだけれど、HIV保有者をHIVウイルスと同一視して怖がってはならない。HIV保有者だって同じ人間で泣いたり笑ったりするし、同じように人生の楽しみも、悩みもあるんだって、本当は当たり前のことをやっと実感できたのです。

その後保健所でHIV検査を無料で行っていることを知り、受けに行きました。 HIVのことを身近に感じたかったからです。それは私が1年以上HIVを盲目的に恐れ、「HIV感染者=私の人生を脅かす侵略者」と感じていたことの清算のようなものでした。 自分も感染し得る病気なんだと考えて検査を受けることによって、HIVに感染している人だって私と同じ人間だと分かりたかったのです。

逆にいえばそこまでしないと私は分からなかった。今でも、本当には分かっていないのかもしれません。身近な人がHIVに感染していると分かった時、私はどんな態度をとるのでしょうか。不安です。 でも少なくとも、HIVの検査を受けなかった自分よりは適切な態度を取れると思っています。(98.6.16)


吉本ばなな一覧 目次 Last modified: Fri Jun 26 16:42:23 JST 1998